こちらの地方は昨日梅雨入りしたそうです。梅雨の時季は田植えの時季でもあります。

こちらにも田園の広がる地区がありますから、間もなく若い稲が一面に植えられた風景が見られることでしょう。

この季節は、旬の野菜がいろいろと出回る時期でもあります。

戦前生まれ、戦中戦後を体験した年代の一人ですが、縁故疎開先が母の実家のある三重県志摩半島でした。三方が海、そして低い山々が一方を塞ぐ、狭くて貧しい土地柄でした。何よりも、飲み水はほとんどが海水が地下の土に浸透してぎりぎり淡水になった程度のレベルの水でしたから、銘水百選などとはほど遠いものでした。

でも、地の人たちはそんなことは当たり前のこととして、汲めども尽きないその海水の自然ろ過水を有り難く、美味しく飲んでいました。地下から井戸水として汲み上げますから、真夏でも約10℃に冷えています。西瓜なども笊に入れて縄で吊降ろし、井戸水で冷やすと、ひんやりと、それは美味しかったものです。

当時、志摩半島の田舎にはまだ釣瓶もありました。棕櫚を綯った太い繩の両端に小さな桶を括りつけてあって、井戸の上部に設けられた櫓の中央に取り付けた滑車にその縄を通し、縄を手繰って水を汲み上げるという仕組みですね。

それから、少し長目の竹竿の端にバケツを括りつけ、それで水を汲み上げる井戸もありました。母の実家は家も土地もすごく広くて、井戸も二つありました。

屋敷の中には畑もあって、大抵の農家と同じように、屋敷内の畑でもさまざまな野菜を作っていました。そして、例えばトマトや胡瓜、茄子など、日常の食卓に必要な野菜は屋敷内の畑から捥ぎ取って賄っていました。

夏には、走って数分のところにある伊勢志摩国立公園の美しい海へ泳ぎに行く時には、畑から大きなトマトを捥ぎ取り、締め込んだ六尺ふんどしの間へそのトマトを入れて行き、海に着くとそのトマトを海水に浮かべておいて、泳ぎの間に冷えたトマトにかぶりついたものでした。  << 続く >>